精神分析
精神分析はジークムント・フロイト(1856-1939)が神経科の医師としての治療から生み出した心の治療法であり、精神分析がその土台とする無意識を含めて人のこころを理解していく人間観は20世紀最大の知の発見に数えあげられています。現在ある心理学、心理療法のほとんどは元は精神分析から生まれたといえます。
欧米では精神分析は心の治療法としての確固たる地位を確立しており、このオフィスのように治療者のプライベートオフィスで治療を行うスタイルが一般的です。日本では精神分析が十分根付いてこなかった歴史があり、プライベートオフィスで行う精神分析治療は最近になってようやく少しずつ増え始めている段階です。
精神分析家には多くは10年以上かけて厳しい訓練を経てなることができます。フロイトが創設した国際精神分析学会(IPA)認定の精神分析家は、2023年の時点で、全世界でおよそ1万2千人、日本には40数人います。日本で実際に本格的な臨床実践をしている精神分析家はそのうちの20数人ほどです。国際精神分析学会の日本支部が日本精神分析協会です。
精神分析では、患者さんは落ち着いた面接室の中で、椅子に腰かけるか、カウチソファーに横たわるかし、くつろいだ姿勢をとります。この状態で患者さんは心に思い浮かぶことをそれに抑制をかけたりせずに、なるべく全て話すことが求められます。最初は慣れませんが、治療がすすんでくると患者さんの心は自然と治療に必要な素材が頭に思い浮かぶようになります。そうして意識的に組み立てをせずに話された患者さんの言葉から、患者さんが意識、無意識全体で今どういう心について語ろうとしているのかに耳を傾けて行きます。手がかりは話される内容だけではなく、あえて話さなかったことや言い間違えたこと、話す話し方、声の抑揚、全体の雰囲気、など様々です。また治療が始まると治療に関係した夢をみるようになることが多く、患者さんからの夢の報告も重要な手掛かりになります。そうした患者さんの語り全体から患者さんの心の真実について、例えば秘められた空想や願望、感情などについて、患者さんが言葉として発見できることを援助していきます。こうしたことを毎回50分かけて続けていきます。
治療面接をこつこつ積み重ね困難な作業を越えていくうちに患者さんは、今まで自分自身がもつ健全で生産的な力をいかに自分が使わず、むしろ不信を抱きそれを避けさえしてきたか気づかされることに多くの場合なります。そして、直視をさけてきたさまざまな偏向した空想や子供時代に根をもつ間違った思い込みなどが人知れず自分を縛ってきたことにも気づくようになっていきます。心を言葉にしていくことはこうした隠された空想を解除して心をより自由にしたり、自分の心も他者の心もより考えられるようになったりと他にも様々な変化、成長をもたらします。また、心の大切な部分について言葉を使って治療者とコミュニケートする力を拡大すること自体が社会の中で自分の幸せを追求し創造的生産的に生きていく力を育んでくれます。
生活全般にいきわたるこうした心の変化が起こるためには、精神分析が生活の一部としてしっかりと組み込まれ、時間をかけて何度もセッションを行っていく必要があります。そのため精神分析の治療期間は数年におよびます。頻度は精神分析では週4~5回で行います。それより少ない頻度の治療を精神分析的心理療法といい、週1〜3回で行われます。治療効果の点で、なるべく週2回以上をお勧めしています。